認知症の高齢者と不動産売買の注意点
売主様が高齢者の場合は意思能力の確認は必須です。
◆意思能力とは、自分の行為の結果を正しく認識し、これに基づいて正しく意思決定をする精神的能力のことで、財産行為については概ね7歳くらいから認められると考えられています。
意思能力がない者と締結した契約は無効となってしまうため、意思能力の有無は契約当事者にとって重大な関心事項なのですが、一定の年齢以上の高齢者は一律に意思能力を有しないものとすることを定める法律はありません。
そのため、認知症の高齢者が意思能力を有するかどうかを、各取引ごとに個別に見極めなければなりません。
不動産売買は、価格・支払時期・引渡しや移転登記の時期等の取引条件の相当性を適切に判断しなければならない複雑な取引であり、財産状態にも大きな影響を与えます。
そのため、不動産売買で意思能力の有無が問題となった場合は、相対的に高度の判断能力が要求されるため、他の取引に比べると無効となるリスクが高いことになります。
何に注意すればよいか
例えば、下記の事項に不合理な点がみられる契約では、高齢者の意思能力の欠如が疑われてしまいます。
①不動産取引(売却・購入)の必要性、理由(動機)に問題はないか?
②売買価格の相当性に問題はないか?
③売買条件の相当性に問題はないか?
高齢者と不動産取引を行う場合は、コミュニケーションがとれるかどうかを確認することは勿論のこと、不動産取引の必要性・理由に不自然な点がないか、売買価格の相当性、売買条件の相当性が認められるかどうかを確認してください。
なお、親族に立ち会ってもらって高齢者の意思能力に問題がないことを確認してもらうことも一つの方法です。
高齢者との売買の場合、親族が知らなかった場合にトラブルになるケースがあります。不動産業者が不当に安い金額で売却させたとか疑う親族もあります。
もちろん、意思決定できるのは所有者様本人になりますが、このような疑いをかけられるのは不動産業者も心外です。身内の方には売買することを予め伝えておいた方がいいでしょうね。
成年後見制度について
成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力が不十分な人(制限行為能力者)に対して、申し立てに基づき家庭裁判所が選任する保護者を付けることで、判断能力が不十分な人を保護する制度です。
なお、契約の相手方にある高齢者が成年後見人などの制限行為能力者でないことは、法務局が発行する登記されていないことの証明書により確認することができます。
ただし、この証明書はプライバシーの観点から、本人や一定範囲の親族しか開示請求をすることができません。
また、制限行為能力者が居住用の財産を売却する場合は、保護者の関与に加え、家庭裁判所の許可が必要になります。
最後に
高齢化が進むとともに、認知症の患者数が増大しています。どの程度の判断能力があれば意思能力が認められるのかを絶対的に判断する基準はありません。
売買契約を行うことを身内が承諾している場合は、契約時点では問題は起こらないことが多いと思います。
ところが、所有権移転時には、司法書士が売主様本人の意思確認を行います。この際に、司法書士が意思確認ができないと判断した場合は、売買契約は無効となってしまいます。
高齢者の売主様に不安がある場合は、売買契約前時にも司法書士による本人確認は行うようにしていますが、所有権移転時には再度必要であることを覚えておいてください。
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