遺言書に涙した日
平成13年にお世話にさせていただいたお客様の息子さんが、マンションを売って欲しいとご来店されました。
お父様はご存命でしたが、高齢になりマンションに戻ることはないからということでした。
高齢ということもあり、本人確認のために、司法書士と私と、息子さんで待ち合わせをして、病院で面談をしました。判断能力に問題ないということで、息子さんが代理人となり売却を進めることになりました。
正式なご夫婦でなかった
平成13年当時、マンションのご案内時も仲睦まじく、素敵なご夫婦だと思っていました。ご主人は背が高くダンディーで、ユーモアがありました。そんなご主人を奥様は笑って見ていたのが、印象に残っています。
契約時に初めて、名字が異なっていたので、正式なご夫婦ではないことを知りました。
あれから、17年ほど経ってから息子さんが来店されたのです。
すでに女性の方はお亡くなりになっていましたが、内縁関係ということもあり、
遺言公正証書をお互いのために作成しておいたようで、共有名義だったマンションの相続登記はスムーズに行うことができました。
行き場のないアルバム
お二人が暮らしたマンションの荷物がすべてそのままの状態で残っていました。
双方の親族とも引き取る荷物はないので、処分してほしいとの依頼があり、私の方で業者を手配しました。
荷物の運び出しの際に、息子さんが遠方で平日ということもあり、私が代理で立ち会いをしました。順調に運び出しをしていると、業者の方がアルバムや写真がたくさん入った段ボールを見つけました。
アルバムには、女性の娘さんから送られてきたと思われる写真がたくさん入っていました。皆さんの旅行写真やお孫さんらしき方も写っていました。
処分して良いか、私も迷った末に一時お預かりして、その日の夜に確認の電話を入れました。ご主人の息子さんは、必要な写真はすでに引き取っているので、処分しても良いとのことでしたが、女性の親族の方にも念のため確認して欲しいとお願いし、連絡を取ってもらいました。
写真は、娘さんから亡くなった女性宛に送った物が大半でしたので、処分してほしいと連絡が来ました。
遺言公正証書に書かれていたこと
仕事柄、遺言書を書くときは、付言も書くように勧めています。
最後に家族はじめ親族に気持ちを伝えられるからです。誰にどのように相続させたいか,だけでなく、残された家族が、仲良く、健康で、幸せであって欲しいと願っていることを伝えられる最後の手紙と言えます。
色々な家族関係があり、複雑な思いもあると思いますが、残された家族は亡くなられた方の思いを知り、心の整理がつくケースが多いように思います。
遺言書にはこのように書かれていました。
「○○さんとは約40年間という長きにわたり、内縁関係にあり、○○さんの戸籍上の妻○○さんが離婚しないために、私は晴れて○○さんの戸籍上の妻にはなれないのです。
ただ、約40年という長きにわたり寄り添ってくれた○○さんがいたからこそ、今日の私があるものと思っており、そのような○○さんには感謝しかなく、私のすべての財産を○○さんに与えることにしたのです。
このように、この遺言は私の思いを込めてなしたものであるので、子供たちはじめ、皆さんもこのような私の気持ちを理解して、必ずこの遺言に従って下さい。
私は、皆さんがいつまでも健康で末永く幸せに暮らすこことを心から祈っています。」